ロックにおけるサンプリング感覚

  「サンプリング」。この言葉に皆さんはどういったイメージをお持ちでしょうか?一般的にサンプリングとは、レコードその他の音源をサンプラーという機械に取り込み、それを音楽制作のための素材に用いることですが、この手法が多用されているのが、ヒップホップ、テクノ、ドラムンベースなどのクラブで流行しているダンスミュージックです。

DJ KOOL HERC
  ヒップホップ界の伝説のDJ、KOOL HERCはブレイクビーツ(レコード上のある一部分を2台のレコードプレイヤーを使い、同じ部分を切れ目が無いように交互にかけること)の概念を発見した人物として知られていますが、この音楽的発見こそがその後のダンスミュージックの発展に大きな影響をもたらしました。




STRAY CATS : Bring It Back Again STRAY CATS : Elvis On Velvet   それがロックと何の関係があるの?と思われる方もいらっしゃるでしょう。今やロックの現場でもサンプリングは常識のようです。STRAY CATSを例にとっても、「BRING IT BACK AGAIN」、「ELVIS ON VELVET」、「CRY BABY」などのコーラス部分は一種のサンプリングと言えるでしょう。最近ではセンチメンタル・バスというグループの「SUNNYDAY SUNDAY」という曲の冒頭部分で「巨人の星」主題歌の歓声をサンプリングしていたのが面白いと思いました。



  その内、サンプリングでリズムトラックを作ったロカビリー、なんていうのも出てきそうですけどね。JETSなんかはドラムマシーンを使ってたみたいですが・・・
  ま、サンプリングで音楽を作っている人には、ロカビリーに興味のある人なんて皆無に等しいでしょうけど・・・。僕もたまにDJやる時には、2枚の同じレコードを交互にかけてみたり、BPM(ビート・パー・ミニットの略。1分間に数えられる4部音符の数。)を合わせて曲から曲へとつないでみたりしてますが、あまり気に留めてもらえないので自己満足の世界になってしまっています。今度はスクラッチでもやってみようかな。僕のDJの師匠はヒップホップDJなもので・・・。

  閑話休題。

  しかし、僕がここで言いたいのはあくまでサンプリング「感覚」です。現代のようにテクノロジーが発達していない時代にも、同じようなことは行われてきました。サンプリング感覚の例として、以下の様な事例があげられると思います。

  1.原曲のタイトル、歌詞を変えて録音・発表する
  2.歌詞の一部を引用する
  3.ギター、ベース、ドラムスなどの印象的なリフ、フレーズ、コード進行を拝借・引用する
  4.ある曲に影響を受けてオリジナル曲を作ったら、結果的にほとんど同じ曲になってしまった

  3,4の例などは、オリジナル指向の強いロックの世界では、「パクリ」と呼ばれてしまうことが多いですが・・・。
  では、一つずつ例をとって、見ていきましょう。


1.原曲のタイトル、歌詞を変えて録音・発表する

  まあいわゆる改作、カヴァーバージョンといったところでしょうか。以前の大映系テレビドラマの主題歌によくありましたね。最近ではDRAGON ASH「I LOVE HIP-HOP」っていうのがありましたね。

SLIM HARPO : Best STRAY CATS : 1st   ロックでは、イギリスのバンド、THE WHOがデビュー前、HIGH NUMBERSと名乗っていたころに発表したシングル「I'M THE FACE」という曲は、ブルースシンガー、スリム・ハーポの「GOT LOVE IF YOU WANT IT」の改作です。
  ロカビリーでは、STRAY CATSが1stアルバムで、ビル・アレンの「PLEASE GIVE ME SOMETHING」を「CRAWL UP AND DIE」として演っていたのが有名ですね。




2.歌詞の一部を引用する

SMALL FACES : 1st LED ZEPPELIN : 2nd   有名所は少ないのですが、イギリスのバンド、LED ZEPPELINの2ndアルバム収録の「WHOLE LOTTA LOVE」は歌の始まりからしばらくの部分が、最高のモッズバンド、SMALL FACESの「YOU NEED LOVING」そのまんまです。
  一般的にはヘヴィメタルの元祖と思われているこのバンド、聞き込めば色々な音楽の要素が混在しているのが分かって面白いですよ。上記の曲をライブで演奏する時には、ジーン・ヴィンセントやリッキー・ネルソンの曲をメドレー形式で挟み込んで演奏していました。



3.ギター、ベース、ドラムスなどの印象的なリフ、フレーズ、コード進行を拝借・引用する

  これはロックにおいては比較的よく使われている手法だと思います。最も有名なのはチャック・ベリーのギターイントロでしょう。イントロに著作権があったら、もっと大金持ちになっていただろう、という笑い話もうなづけます。

DIANA ROSS & THE SUPREMES : Best   それから、モータウンの花、スープリームスの「YOU CAN'T HURRY LOVE」の「ダッダッダー、ダッダッダダー」というベースパターン。COOLSの「KISS ME」、プリプリの「DIAMONDS」、広末涼子の「MAJIで恋する5秒前」など、このフレーズを引用した曲は枚挙に暇がありません。ベーシストの皆さん、モータウンサウンド、ひいてはジェイムス・ジェイマソンのベースプレイを聞いて損はありませんよ!





GLEN GLENN   STRAY CATSも「EVERYBODY NEEDS ROCK'N ROLL」でグレン・グレンの「EVERYBODY'S MOVIN'」のリフを引用していますね。







RAMONES : End Of The Century HANOI ROCKS : Back To The Mystery City   ベンチャーズで有名な「LET'S GO!」という曲の「ダン、ダン、ダダダン、ダダダダン」というドラムのフレーズも、ラモーンズの「DO YOU REMEMBER R&R RADIO?」や、ハノイ・ロックスの「MALIBUBEACH NIGHTMARE」などに引用されています。






BO DIDDLEY : CD Box   あとボ・ディドリーが編み出したと言われている「ドンツクドンドンツクドンドン」というビートもよく使われています。実のところ、これにも「ハンボーン」という元ネタがあるらしいのですが、未聴のため詳しい記述は控えさせていただきます。








4.ある曲に影響を受けてオリジナル曲を作ったら、結果的にほとんど同じ曲になってしまった

  これはパクリと紙一重の危うさがあります。しかし、ブルースの世界では昔からよくあることなので・・・。まあ、元ネタってとこでしょうか?

THE BEACH BOYS : Surfin' USA JOHNNY BURNETTE TRIO : Rock Billy Boogie   ビーチボーイズの「SURFIN' USA」はチャック・ベリーの「SWEET LITTLE SIXTEEN」を下敷きにしています。まあ、クレジットはチャック・ベリーになっているので、これは1の例に近いものでしょう。

  また、ジョニー・バーネット・トリオの「OH BABY BABE」なんて、まんまエルヴィスの「BABY,LET'S PLAY HOUSE」ですもんね。




  STRAY CATS(BRIAN SETZER)にも幾つかの事例があります。「FISHNET STOCKINGS」、「GONNA BALL」、「THE DIRTY BOOGIE」などがそうですが、「インスパイア」って、こういうのを言うんでしょうね。まあ、どこをどう聞いても同じ曲なのに、作詞・作曲のクレジットはしっかり自分達になっている・・・なんてのよりは良いんではないでしょうか?あっ、そういうのもあるか・・・。

  たかがROCK'N'ROLL、されどROCK'N'ROLL。僕たちが楽しめてカッコいいと思えれば良いんじゃないですか?



STRAY CATS : Gene&Eddie   そして、これらのサンプリングソングの最たるものが、STRAY CATSの「GENE&EDDIE」ではないでしょうか?偉大な先達への「リスペクト」、「トリビュート」という意味も含めて・・・。







  番外編として、アンサーソングを入れておきたいと思います。ニール・セダカの曲「OH!CAROL」を聞いたキャロル・キングが(実際この曲はキャロル・キングに宛てられたものだそうですが・・・)「OH!NEIL」という曲を作ったり。元歌の歌詞の内容を受け継ぐという点で、サンプリング感覚の一種と言えるでしょう。あと、「替え歌」や「パロディー」なんてのも当てはまるかもしれませんね。


  僕が言いたかった「サンプリング感覚」、なんとなく分かってもらえたでしょうか?ローリング・ストーンズのキース・リチャーズは、

  「とどのつまり、この世には真にオリジナルな曲は1曲しかないんだ。後の曲は皆それの亜流さ。」

と語っています。まあ、これは極論ですが、そういうふうに音楽というものは伝承されてきたんでしょう。

  かつてブライアン・セッツアーもインタビューで言ってました。

  「エディ・コクランのコピーをやるのは楽しいけど、大切なのはそれをどう伝えていくか、ってことなんだ。」

  僕たちも渡されたバトンを、しっかりと次の走者に渡しましょう。


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